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豆まかれ
節分小説。





「シンジ君、豆まきしよー」

そう言いながら渚が持ってきたのは節分用の豆だった。
何粒入ってるのか知らないけど、結構大きな袋だ。お得用サイズのような。
節分用の豆にお得用サイズなんてあるのかって話だけど。
豆まきしないなら最低二十九粒あれば足りると思うんだけど、一体渚はどれだけ豆を撒きたいんだろうか。
気乗りはしないけれど、嫌とはっきり言う程でもなかったから、渋々返事をする。

「いいけど、君が鬼やれよ?」
「えっ、シンジ君鬼じゃないの?」
「嫌だよ、変な鬼のお面被って豆ぶつけられるだけでいいことなんてひとつもない役なんて」
「うわぁ、そう言われると素直に僕鬼やるって言いづらいな……」
「じゃあ、豆まきしなきゃいいんじゃない?」

とりあえずいいとは言ってしまったものの、「いくよー、渚、鬼は外」と言いながら豆を投げて、渚から「あはは、痛いよシンジ君」という言葉が返ってくるような豆まきになるはずがない。いや、渚なら出来る気がしないでもないけど、僕は無理だ。
つまり二人で豆まきしても楽しさが見出せないというか。
でも、渚は見るからに豆まきがしたいように見える。
顔に不満ですって書いてある。
そういう時、渚はわかりやすい奴だと思う。初めは何考えてるのかよくわかんない奴だと思っていたけれど、一緒にいるうちにわかるようになってしまった。
そして、渚の声も不満を主張していた。

「ていうか僕は豆まきがしたいのにー。豆まかれがしたいわけじゃないのにー」
「何? 君、僕に豆ぶつけたかったの?」

豆まかれって何だよ、と内心笑いを堪えつつ、聞いてみる。
豆まきはともかくこういう会話は嫌いじゃない。
いや、豆まきも嫌いとまでは言ってないけど。

「んー、ぶつけたいっていうか……」

そこまで言って、渚は僕に近づいてくる。
僕の前に立つと、僕の両腕を掴んで半回転させる。

「何?」
「いーから、いーから」

何がいーからなんだと思っていたら、ざあっという音がした。

「なんっ……!」

服と背中の間を豆が落ちていく感触にぞわっとする。

「あは。服は内」
「ふざけんなっ!」

怒鳴る僕とは対照的に渚は楽しそうだった。
さっきの不満オーラなんて完全に消え去ってしまっている。

「ねぇねぇ、それベルトのところで豆が溜まってるんじゃないの? 出さないの? 僕が脱がせてあげようか?」
「いや、いいよ……自分で脱ぐから」
「ふーん、じゃあどうぞ」
「何でわざわざ君の前で脱がなきゃいけないんだ!」
「えっ、僕から離れてから脱ぐの? そっちの方がわざわざじゃない?」
「渚、何がしたいんだ!」
「えっ、昼間からいいことしたい」

こいつは……

「そのために服脱ぐ口実がほしかったのか」
「そうじゃないよ、シンジ君と節分したいっていうのが一番だよ」
「全然節分出来てないじゃないか!」
「これからが本番じゃない?」

どういう意味だ、って聞こうとしたために、反応が一瞬遅れた。
気付いた時には目の前には天井があって、それを覆うような形で渚が見えた。
こんな状況で押し倒すなよ。
ここ、床だし。

「ちょっと、痛いっ。背中に豆溜まってるんだから」
「うん、だから僕が出してあげる。それで、口移しで食べさせてあげるよ」

もう渚からは逃げられないと悟って、小さく溜め息を吐いた。
仕方ない、もう観念して諦めるしかないな。

「もう好きにしろよ」
「あっ、いいの? じゃあ、そうするね」

ぱっと渚の表情が明るくなる。
これだけ迫られたらそういうしかないのに、自分でその状況に追い込んでおいてそんな嬉しそうにされてもね。
だから渚が嬉しそうで良かったとか、そんなこと、思ってない。

「ちゃんと最後には受け入れてくれるシンジ君が僕好きだなー」
「言っとくけど、これは受け入れたんじゃなくて諦めたんだからな」
「それって何が違うのさ」

そう聞いてくる渚はまだ嬉しそうなままで、多分本当はその二つの気持ちに大差はないってことは多分バレてる。

「いいから。やるの、やらないの? やるなら早くしてほしいんだけど」
「そんなに急かさなくてもちゃんとやるって」
「別に誘ったわけじゃないからな」
「はいはい」

豆まきなんかしなくても、君が側にいれば福があるというか、幸せだってことを面と向かって言えるわけがない。
けど、僕だって少しでも君が幸せそうな笑顔でいられるように出来る限りのことはしたいと、そう思っている。
だから、渚も幸せはいつでも側にあるってそんな当たり前のこと言われなくても、気付けよな?















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大遅刻どころの騒ぎじゃない。

H23.3.5





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